海外子会社へ従業員の方が出向されることになった、又は出向していた社員が出向から帰任(帰国)されることになった場合、給与計算担当の方は結構悩まれることが多いのでは無いでしょうか。
今回は、海外子会社への出向・帰任に絡む所得税計算について整理したいと思います。
給与課税に関する説明をする前に、居住者・非居住者について整理する必要があるので、下記を確認してください。
居住者:日本に住所又は一年以上居所を有する個人 → 全世界で稼いだ所得に対して日本で課税
非居住者:居住者以外 → 国内源泉所得(日本で稼いだ所得)に対して日本で課税
居住者と非居住者、いずれに該当するかどうかによって、日本での課税範囲が変わることがポイントです。
出向を例にとると、『外国子会社への出向期間が出向辞令や契約において1年以上と定められているとき』は日本に住所が無いと推定されて非居住者扱いとなります。ちなみに、出向期間が定められていない場合も非居住者扱いとなりますが、非居住者を意識して契約等を作成する際はあらかじめ出向期間を明示することをお勧めします。
また一年以上の予定で海外子会社へ出向し、やむを得ない事情で出国から半年後に帰国した場合は、出国から帰国までの期間を非居住者として取り扱うこととなります。結果として非居住者期間が半年ですが、出国時にさかのぼって居住者判定とはなりません。
更に、辞令により一年未満の予定で海外出向し、出国後の再辞令により出向期間が一年以上となるケースについては、その再辞令により出向期間が一年以上に渡ると確定したタイミングから非居住者となり、このケースも遡って判断が覆ることはありません。
なお、出国の翌日から非居住者に、帰国した日の翌日から居住者になる点も実務的には非常に重要です。「翌日から変わる」と覚えると良いと思います。
本Blogは出向を前提としたケースで居住者判定が比較的容易ですが、実際は居住者・非居住者判定が複雑になるケースが多いです。居住者判定が気になる方は下記Blogもご参照下さい。
非居住者に対して支払う給与・賞与のうち、日本で課税対象となる「国内源泉所得」の対象となるのは『国内において行う勤務(内国法人の役員としての勤務で国外において行うものを含む)に基因するもの』と定められています。
余談ですが、内国法人(日本企業)が運行する船舶又は航空機において行う勤務は「国内における勤務」となります。
見て頂いた通り、従業員と役員とで扱いが異なる点は要注意です。
日本法人役員の方は、仮に海外で日本の役員としての職務を行っていても、その全額が国内源泉所得として原則的に日本で課税(20.42%源泉徴収)されます。
一方、非居住者期間中に従業員に留守宅手当を支給する場合は、原則的に所得税非課税となります。
ではその計算期間に居住者期間と非居住者期間が混在する、出国後最初の給与や賞与はどのように取り扱うのでしょうか。
計算期間が1ヶ月以下となる給与の場合、計算期間の全てが国内勤務である場合を除いて、その全期間が国外勤務だったと考えて全額所得税非課税となります。逆に計算期間の全てが居住者であった場合は、その全額に対して20.42%課税されます。
例えば、4月1日~30日が給与計算期間、4月20日出国、5月10日給与支給の場合は、その給与全額が所得税非課税です。
計算期間が1ヶ月を超える賞与については、その計算期間のうち居住者・非居住者期間を按分して計算する必要があります。
例えば、1月~6月が賞与計算期間、4月末に出国、8月10日賞与100万円支給の場合、下記の通り源泉所得税を天引する必要があります。
国内源泉所得:1,000,000円×120日÷181日=662,983円
源泉所得税:662,983円×20.42%(一律)=135,381円
なお、賞与額から社会保険料を天引している場合でも、源泉所得税を計算する際には支給額から控除することが出来ない点に注意が必要です。
これは、居住者が支払ったものが社会保険料控除の対象となるからです。
先ほどと逆のケースで、海外子会社出向されていた方が出向期間を終え帰国されるケースについて確認します。
帰国日の翌日から居住者扱いとなるのは既にお伝えしたとおりですが、帰国後に給与支給を受けて、かつその給与計算期間中に非居住者と居住者の期間が混在する場合は、その支給額の全額が国内源泉所得として日本の課税対象となります。
なお、この際の所得税計算は20.42%の一律課税ではなく、一般の国内勤務者に適用される「給与所得の源泉徴収税額表」に基づいて計算することとなります。
この点は賞与についても同様で、按分計算をせずにその全額を国内源泉所得として普段通りに税金計算することになります。
期間按分について「出国=必要」「帰国=不要」とイメージして下さい。
通常は12月支給給与をもって年末調整を行いますが、出向者や帰任者に係る年末調整はどのように行うのか、最後に確認したいと思います。
まず出向者は、出国年の1月1日~出国日までの期間に支給期の到来する給与を対象に、出国時に年末調整を実施します。12月末ではないのでご注意下さい。
出国後に支給を受けた給与や賞与について、上記説明により国内源泉所得部分があり20.42%課税を受けた所得があったとしても、非居住者期間の所得や税金は居住者期間の所得や税金と分けて考える為、出国時に行った年末調整は事後的な訂正が入りません。
出国年の年末調整にはいくつかのポイントがあるので、下記ご参照下さい。
・控除対象配偶者や扶養親族等の取扱いは(それらの方の所得も含めて)出国日現在の現況により判断
・社会保険料、生命保険料、地震保険料については居住者期間分に支払ったものだけが対象となる
→控除証明書発行が困難なケースは、合理的な計算でOKだと思われます
・住宅ローン控除については、出国時点で12月末の扶養親族居住継続要件を満たすかどうか不明であるため、原則的に適用不可
では帰任者の年末調整はどう行うのでしょうか?
「年の途中で帰国した人は年末時点で居住者なので一年を通じて居住者だ」とはなりません。あくまで帰国した日の翌日から居住者となるので、居住者の期間に生じた所得により年末調整を行います。
一人の人について、一年の期間中に居住者期間と非居住者期間が混在するのはアリ、とご理解下さい。
非居住者役員に対する退職金の課税に関して気になる方は、下記Blogもご参照下さい。
あすか税理士法人
【国際税務担当】高田和俊
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