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国際税務2022.03.23 国外転出時課税を受けた後に対象資産を居住者に贈与した場合の取扱

居住者が出向や移住などにより非居住者となる場合に有価証券の含み益等について課税される国外転出時課税の概要については過去のブログで解説しました。

 

今回は国外転出時課税の適用を受けた者がその後5年以内(納税猶予を受けている場合は10年以内)に何らかの理由で対象財産を日本の居住者に贈与した場合の取扱いについて解説します。

 

1.国外転出の日から5年以内に贈与した場合


 

例えば、オーナー企業の社長が出国後に自身が保有する自社の非上場株式を親族に贈与するケースをイメージしてください。
国外出国時に国外転出時課税の適用を受け、対象株式を譲渡したものとみなして所得税を計算し、一旦課税は完結しています。
通常の譲渡であればここで終了ですが、国外転出時課税は実際に譲渡しているわけではないので、国外転出後に対象資産に異動が生じた場合は特例的な取扱があります。

 

対象資産を国外転出の日から5年を経過する日まで(納税猶予の適用を受け、期限を10年に延長している場合は10年を経過する日まで)に居住者に贈与により移転した場合、その対象資産については国外転出時課税の適用がなかったものとすることができる(所法60の2⑥Ⅱ、⑦)と規定されています。

 

つまり、出国後5年以内に対象資産を居住者に贈与した場合、贈与した部分については課税の取り消しを受けることが可能となります。
この場合、対象資産の移転の日から4ヶ月以内に更正の請求を行う必要があります。

 

なお、受贈者側は贈与された日の時価により贈与税を計算することとなります。

 

2.贈与時の価額が国外転出時に比べて下落している場合


 

前提として、国外転出時課税に係る納税猶予の適用をうけている個人が対象となりますが、納税猶予の期限までに対象資産を贈与により移転した場合についても特例があります。

 

贈与時の価額が国外転出時の時価よりの低い場合、贈与の時の価額により、国外転出時課税の適用があったものとみなして、国外転出時課税の再計算をすることができるとされています(所法60の2⑧)。

 

この適用を受けるためには、上記1と同様に移転の日から4ヶ月以内に更正の請求をすることが必要となります。

 

 

なお、受贈者については、国外転出時課税の適用により譲渡したものとみなして贈与者側で課税が完結していることから、贈与税の申告は発生しません。

この場合の受贈者の株式の取得費は贈与時の時価となります。

 

 

 

3.上記1又は2の選択適用


 

納税猶予適用者が、納税猶予の期限までに国外転出時課税の対象資産の全部又は一部を贈与により居住者に移転した場合で、かつその贈与の時の価額が国外転出時課税時の価額を下回る時は、上記の1及び2のいずれにも該当することとなります。

 

この場合、納税者はどちらかの規定の適用を受けることを選択できるとされています(所基通60の2-11)。

 

なお、いずれも「することができる」こととされているため、いずれの規定の適用も受けないという選択をすることも可能です。

 

 

有利不利の判定はその都度行うべきですが、例えば、国外転出時の株式の時価総額2億円、株数2,000株(取得価格@1万円)、贈与時の価額1.5億円という例で、贈与者の有利不利を検討すると下記のようなイメージです。

・555株超を贈与する場合は1の課税取り消しが有利
・555株以下の贈与の場合は2の再計算が有利
・5年以内の贈与数が未定の場合はどちらも選択しない

 

いかがでしょうか。特に非上場会社は出国後に方針転換をすることも珍しくはないことから、国外転出時課税適用後の贈与や譲渡については慎重に検討してください。

 

 

 

あすか税理士法人

【国際税務担当】街 有帆