日本公認会計士協会(JICPA)監査基準委員会は、2022年3月期以降適用される監査基準等の改正後のその他の記載内容に対する監査人の対応において留意すべき事項(以下、留意事項)を公表しました。今回は、この内容についてまとめてみました。
1.その他の記載内容に関する監査基準等の改正ポイント
その他の記載内容とは、開示書類における財務諸表と監査報告書以外の情報の部分のことを指します。
その他の記載内容は、監査人の監査対象(監査範囲)には含まれていないのですが、この記載内容に財務諸表や監査人が監査の過程で得た知識(情報等)と重要な相違(矛盾)があった場合、財務諸表の重要な虚偽表示やその他の記載内容の重要な誤りが存在し、結果として、財務諸表そのものやそれに添付されている監査報告書の信頼性が損なわれる可能性があると考えられます。
改正前の監査基準においても、監査人はその他の記載内容を通読し、監査した財務諸表との重要な相違点がないかどうかを確かめることが求められていましたが、その他の記載内容に対する監査人の役割や実施すべき手続を明確にすることや、一定の場合においては監査報告書において情報提供を求めることが改正のポイントとなっています。
<改正のポイント>
①監査人は、その他の記載内容について意見を表明するものではなく、保証業務としてのいかなる結論も表明しないことは変更がない。
②(改正前)監査した財務諸表とその他の記載内容の重要な相違を検討する。
→(改正後)監査した財務諸表だけでなく、監査人が監査の過程で得た知識との間の相違についても検討しなければならない。
③(改正前)その他の記載事項について明らかな誤り(重要なもの)に気が付いた際には追加的な手続を行うことが求められる。
→(改正後)財務諸表や監査人が監査の過程で得た知識に関連しないその他の記載内容についても、重要な誤りがあると思われる兆候に注意を払うことが求められる。
④(改正前)財務諸表とその他の記載内容との間に、未修正の重要な相違がある場合は監査報告書の「その他の事項」区分にその相違の内容について記載する。
→(改正後)監査報告書に、原則として見出しを付けた独立した区分を設け、その他の記載内容に関する報告を行う。その他の記載内容に関する経営者、監査役等及び監査人の責任、また、監査人の作業の結果等も記載される。
2.その他の記載内容に関する監査人の作業について
監査人は、その他の記載内容を通読し、財務諸表や監査の過程で得た知識との間に相違があるかどうかの検討を行う場合には、先にも述べた通り、監査人はその他の記載内容について意見や保証業務としての結論を表明するものではないことを認識した上で、作業の種類や範囲を決定するものと考えられています。
(1)その他の記載内容と財務諸表との間に重要な相違があるかどうかの検討
この場合、情報のすべてについて整合性の検討が求められているわけではなく、利用者にとっての重要度・金額の大きさ・慎重な取り扱いを要する項目かどうか等を考慮して、検討対象を選択することとされています。
また、その際に実施される手続の種類及び範囲についても、その他の記載内容について意見や保証業務としての結論を表明するものではないことを認識した上で、職業的専門家として判断して決定するものとされています。誤解を恐れずに言えば、実施する公認会計士の判断に委ねられているということです。
(2)その他の記載内容と監査人が監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかの検討
この場合も、検討する対象・実施する手続の種類は、職業的専門家としての判断に委ねられています。ただし、監査人はその他の記載内容の誤りが重要な誤りとなり得る項目に焦点を当てることがあるとされている点には留意が必要かと思われます。
従って、経験豊富で監査の主要な部分に精通している監査チームの上位者が、監査において入手した監査証拠や結論に対する認識と照らし合わせて検討することが考えられるとされています。
また、個々の監査の状況によって、監査の過程で知識を得ている場合もあるため、留意が必要です。例えば、固定資産の減損会計の検討を行った際に、気候関連リスクのリスクが将来キャッシュ・フローに反映されているような場合には、監査の過程で企業の温室効果ガスに関する知識を得ていると考えられるため、その知識とその他の記載内容との間に重要な相違があるかどうかの検討を行うこととされています。
(3)財務諸表または監査人が監査の過程で得た知識に関連しないその他の記載内容について、重要な誤りがあると思われる兆候に注意を払うこと
この場合、監査人は一般的な知識との相違やその他の記載内容における不整合に注意することが求められますが、重要な誤りの兆候が認められなければ、追加の手続は不要とされています。
一方、重要な誤りがあると思われた場合には、経営者と協議した上で、以下の①~③に該当するか判断をするために必要に応じて追加の手続を実施することが求められます。
①その他の記載内容に重要な誤りがある
②財務諸表に重要な虚偽表示がある
③監査人の企業・企業環境の理解の更新が必要である
留意事項においては、その他の記載内容の検討において、監査人が行うと考えられる手続が例示されており、企業の経理担当者の皆様にも、監査対応の観点から参考になるものと考えられます。
3.その他の記載内容の範囲について
(1)統合報告書等
統合報告書は、一般的に企業がその財務資本の提供者に対して、組織がどのように長期にわたり価値を創造するかを説明することを目的として公表される文書のことであり、各企業において様々な名称・形式等で公表されています。
統合報告書等における財務諸表及び監査報告書の取扱い(以下の①~③のケース)によって、その他の記載内容の範囲が異なるため、留意が必要です。
①財務諸表及び監査報告書が含まれていない場合
②財務諸表及び任意監査の監査報告書が含まれている場合
③財務諸表及び法定監査の監査報告書が含まれている場合
(2)英文アニュアルレポート等
企業は、日本の法令等に基づく年次報告書のほかに、主として外国人投資家向けに英語等の言語による年次報告書(英文アニュアルレポート等)を作成し、公表している場合があります。
英文アニュアルレポート等の作成方法(以下の①~②のケース)によって、その他の記載内容の範囲が異なるため、留意が必要です。
①財務諸表及び任意監査の監査報告書が含まれている場合
②有価証券報告書等を直訳して作成されている場合
該当する企業の経理担当者の方は、一度留意事項の内容についてご確認ください。
あすかコンサルティング株式会社
【会計コンサルティング担当】津田 佳典
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